ジャパンノーザンライツ

2022.12.02

アルペンスキー選手における膝前十字靭帯の発生と予防①

アルペンスキー競技中の怪我


 

アルペンスキーにおける膝前十字靭帯(ACL)損傷の発生率は他の競技では考えられないくらい高いです。
FISが4000人のFISレーサーに対し障害調査をした結果では練習中に膝の怪我をすることがとても多いことが分かっています。

 

 

 

 

この練習中の膝の怪我を少しでも予防することができないでしょうか?
ACLZEROPROJECTという156名の選手(内訳は以下参照)からご回答いただきましたアンケート調査の結果をコーチやトレーナのアドバイスを踏まえながらご報告します。

 

 

 

 

 

怪我の発生率とマテリアル


 

怪我の予防に取り組んでいる選手は6割でした。
前十字靭帯を損傷したことのある選手は全体の30パーセントと他のスポーツでは考えられないくらい高い発生率であり、損傷時年齢は平均21.5±10歳でした。
この30パーセントの靭帯断裂経験のある選手は圧倒的にGSでの損傷でした。
ワールドカップを見ていてもほとんどの選手はGSでACLを損傷しておりますので想像どうりですね。
ちなみにSLのほうが損傷率が低いのは板が短いからです。
長くて曲がりやすい板は前十字靭帯を損傷しやすいのです(Br J Sports Med. 2022 May 10)。

 

 

 

 

つまりGS練習中の膝前十字靭帯損傷をいかに予防するかということになります。
何故GSで損傷するのでしょうか。
サイドカーブが昔より大きくなっているのにも関わらず未だに膝の怪我が多いのは、サイドカーブが大きくなってもスキーが進化していることで安定した直進 急激なカーブ という相反する二つが1台のスキーでできるようになったからでしょう。
正確な動かし方ができないと体への負荷も大きくなるので依然怪我が減らないのだと思います。

 

 

 

 

発生予防に大切な① 受傷メカニズムの理解。


 

 

 

 

前十字靭帯は膝関節の真ん中にある関節の安定性にとても大事な大腿骨と脛骨を繋いでいる靭帯です。
前十字靭帯は膝が内側に入る外反、スキーの姿勢で後傾になるの膝屈曲、膝下が内側に捻じれる下腿内旋で靭帯が強く緊張します。
この3つの状況がすべて揃うスリップキャッチという状況を起こすメカニズム(Koga, BJSM2011)をより多くのかたに理解してもらいたいと思います。

 

https://www.youtube.com/user/ReadySetMed、Ref: ORF SPORT / Source of movie: https://sport.orf.at/

 

 

ターンの前半で内倒または内足荷重となり外足への荷重が失われると体重が後方にシフトします この状態で外足が急に再びグリップすると体は下に落ちようとしているので膝が外反し カービングスキーの内側に急激に入ってこようとする力で脛が内旋し、上半身がさらに遅れて後傾になり膝が屈曲しますので、前十字靭帯の緊張する外反、内旋、屈曲が全て同時に起こり靭帯は簡単に切れてしまいます。
このSlip catchは雪質も関与しますがJNLの選手の動作解析でターンが遅れることや悪い滑走ラインが原因で起きていることがわかってきました。
ゲートに対してどのような角度で入っていくかが大事です。

 

 

Ref: EURO SPORT / Source of movie: https://www.eurosport.com/
Ref: ORF SPORT / Source of movie: https://sport.orf.at/

 

 

動画に出てくる選手は全員ACLを切った瞬間の映像ですがどの選手もゲートの下でカーブ、ターンをしています(ターンが遅れた結果突っ込みすぎ)。
ゲートを過ぎてからターンするとスキーが下方向(フォールライン)を向いてスピードが出た状態から横向きになります(ターンの後半)ので落ちていきながら斜面を横切るので一番重力がかかってきます。
このようなターンの入り方をすると上半身が内倒または内足荷重となりやすく外足への荷重が失われます。
その後外足が急に再びグリップすると体は下に落ちようとしているので膝が外反し、カービングスキーの内側に急激に入ってこようとする力で脛が内旋し、上半身がさらにおくれて後傾になり膝が屈曲しますので前十字靭帯の緊張する外反 内旋 屈曲が全て同時に起こります。
ゲートの上でしっかりと方向を付けて入ってくることで予防につながる可能性があります。
特に、急斜面ハードバーンでゲートの振り幅のある時の練習ではラインを意識しましょう。
緩斜面の真っすぐセットで前十字靭帯を切ることはほとんどありません。
雪質ハードが多い菅平で練習する方は、 人工雪だと雪が乾燥してて引っ掛かりやすい スキー板の反応がよい スキーが急激にかえってくる よく走る 膝への負荷が強くなりますので意識の徹底をお願いしますね。

 

もう一つは後傾での着地です。
身体が斜面に対して後傾状態で斜面から強い衝撃がくると体が大腿の力で支えきれずお尻が落ちてしまい、膝が強く屈曲します。
この状態で強く踏ん張ると太腿の前面にある大腿四頭筋が強く収縮する結果その力がお皿の骨(膝蓋骨)を介して膝蓋腱につたわり膝蓋腱はすねの骨 脛骨についてますので脛骨が強い力で前方に引き出されます。
その結果前十靭帯がのばされ断裂してしまいます。
後傾にならないように斜面に対して垂直な体の位置を維持し続けることが大事です。

 

 

アルペンスキー選手における膝前十字靭帯の発生と予防②へ続く

 

東千葉メディカルセンター 整形外科  佐藤  祐介