ジャパンノーザンライツ

2022.10.27

シーズン中に怪我を防ぐ為に抑えておきたいポイント

皆様こんにちは、JAPAN NORTHERN LIGHTSトレーナーの青木です。

 

W杯が開幕し、日本での2022-2023シーズンもまもなくスタートしますが、シーズンを迎える為の準備はできていますか?

 

前回私が書いた記事で、体作りの重要性が認知された現代においては “成績を残す為” ”ハードバーンで怪我をしない為” には『トレーニングやコンディショニングによる体作りが必須になる!』というお話をさせていただきました。

 

特に、怪我をしてしまう事で、シーズンを “強制終了” させられてしまう選手も少なくありません。
アルペンスキーは、他のどのスポーツと比較しても怪我の発生率が高く、その中でも特に「前十字靭帯(以下ACL)損傷」は、非常に発生率の高いスポーツです。
もしACLの断裂をすると、手術が必要となり、競技復帰までに最低で6か月、パフォーマンスを戻すまでに1年から数年単位の時間を要する事すらあるのです。

 

今回は、この様な大怪我を防ぐ為に「アルペンスキーヤーが、大怪我を防ぐ為に抑えておきたいポイント」についてお話しします。

 

 

怪我を起こす原因は何か?


 

これは私が、常にアスリートに伝え続けている事ですが、怪我に偶然はありません。
現代は、科学が進み、何が怪我を起こしているのか?の要因が概ねわかってきている為、その原因と向き合い改善させない限り “怪我の功名” を得る事はできません。

 

現代のアスリートは恵まれていることに、過去に大怪我をしてしまった人のデータ(先人の失敗)を見る事で、怪我を未然に防ぐ事ができます。
この先人のデータを活用しない手はありません。

 

怪我を防ぐ為には「何が怪我を起こす原因となるのか?」を理解する必要があり、この地雷を踏まない様に準備する事が必須になります。

 

まず、アルペンスキーでの怪我の原因を考えると、以下の4つに分類できます。

 

■ マテリアルの問題
■ スキー技術の問題
■ 体の問題
■ コース状況の問題

 

この中で、改善代が大きい原因は「スキー技術の問題」と「体の問題」の2つで、トレーナーの私が介入できるのは「体の問題」です。

 

今回は、この「体の問題」に関して少しだけ深掘りしたいと思います。

 

 

怪我をしない体とはどんな体?


 

「怪我をしない体」を、もう少し解像度を上げて説明すると「体の構造を考えた時に、最大限効率的な動作ができる体」です。簡潔に言い換えると「上手な体の使い方ができるか否か」です。

 

効率的な動作ができれば、適切にエネルギーを放出でき、体に加わるダメージも減る。
つまり『怪我をしない体 = スポーツパフォーマンスの高い体』と言えます。

 

次に、「パフォーマンスピラミッド」という表を使って、具体的な内容を見ていきましょう。
少し、専門的な内容にはなりますが、できるだけ簡単な言葉でお話しします。

このパフォーマンスピラミッドは、4つのステップで構成され、下のステップが広いほど土台が安定し、上のステップを広げる為の “身体的な余裕” が生まれます。
それぞれのステップの具体的な内容を簡単に説明すると

 

■ スキル
スキーの練習、サマースキーの練習など

■ ストレングス
筋トレ、有酸素運動、ダッシュ、バランストレーニングなど

■ ファンクショナルムーブメント
動作の質を高めるトレーニング

■ アナトミカルポジション
姿勢の質を高めるトレーニング

 

この様に「体」を軸に見ると、雪上での技術練習は、技術習得の最終局面であって『スキー技術の伸び代は「体の準備がどれだけできているか?」これによって決まる』と言っても過言ではないのです。

 

次に、ピラミッドの形を変えてみていきます。

 

右の図の様に、現在のスキー技術が低くても、ピラミッドの下段が広いスキーヤーほど、怪我のリスクが小さく、上段のスキルの向上も期待できます。一方で左の図の様に、下段が狭いスキーヤーは、上段のトレーニングを行っても能力を大きくは伸ばないだけでなく、怪我のリスクも高まります。

 

これは決して先天的なものだけでなく “後天的な努力” によって、下段を強化し、土台を広げていく事で、怪我のリスクを減らし、伸び代を大きくする事ができるのです。

 

 

怪我のリスクを減らす最初の取り組み


 

パフォーマンスピラミッドでご覧いただいた様に、最も重要な要素は、最下段に位置する「姿勢」です。
現代人は、下を向き “猫背の姿勢” をとる時間が長く、多くの人が “本来あるべき姿勢” からのズレを抱えています。

 

良い動作は “良い姿勢” からしか生まれず、怪我のリスクを減らす為には「猫背、ストレートネック、反り腰、骨盤の左右差、O脚、内股」などの体の問題を改善する必要があります。

 

今年のオフトレや夏合宿に参加していただいた選手には、この “姿勢の改善” や “動作の質の向上” に徹底的に取り組んでいただきました。
多くの選手がこの半年の間で、姿勢や動作が改善され、高いパフォーマンスが発揮できる体に変化してきました。

 

しかし、油断は禁物です。ここからシーズンが始まり、運動量が増える事によって疲労の蓄積や動作のクセによって、体のバランスは少しずつ崩れていきます。
シーズンオフに、体作りをしっかりと行なったスキーヤーほど「12月が1番調子が良かった」という、ピーキングの失敗に陥る事は少なくありません。

 

シーズン中こそ、しっかりと体のコンディショニングを行い、体の姿勢・動作を良い状態に保つ事が非常に重要になるのです。

 

今シーズン、JNLでは「体のメンテナンスサポート」も充実させていきます。

 

 

ACL zero project


 

現在、私たちは、アルペンスキー界全体が抱える問題である『前十字靭帯(ACL)断裂を発生率を下げ、1人でも怪我で夢を諦める選手を減らしたい』この想いを実現する為「ACL zero project」という取り組みを行なっております。

 

今までのスキー界をみても、スキーの技術レベルが向上し、高速化していく事で大きくなる怪我のリスクに対して、FISルールの変更や、マテリアルの規定変更で改善を図ってきましたが、大きな効果があったとは言い難いものがあります。
そこで、膝を専門とするドクター、現場で指導するアルペンスキーコーチ、スキーに携わるスポーツトレーナーが受傷率を低減させる為に、多角的なデータ分析を行い、取り組む事で、受傷率を低減させる事を目的としているプロジェクトを立ち上げました。

 

最初の取り組みとして、皆様にお答えしていただいた、データを元に新たな原因の解析に取り組んでいます。
引き続き、危険因子を一つでも減らし、怪我の発生率をZEROに近づける努力をして参ります。