2022.04.18
スキーマテリアル進化のメリットとデメリット
こんばんは!
JAPAN NORTHERN LIGHTSの谷です。
今回は年々進化するスキーマテリアルについてお話しさせていただきます。
皆様もご存知の通り、近年ではものすごい勢いでスキーマテリアルが進化を遂げています。
そこで今回は3つの視点から今のスキーマテリアルについてお話していこうと思います。
・なぜスキーは曲がるのか
・ATOMICサーボテック
・デメリット
スキーが進化してきた背景を知ることで、スキーの動きが見てきます。またそこから生まれてしまっている弊害(デメリット)についても触れていき、本当に必要なスキー技術に迫っていきたいと思います。
理論の内容が多い文章になってしまいますが、どうぞ最後までお付き合いください。
よろしくお願い致します。
<なぜスキーは曲がるのか>
数十年前に登場し世界に衝撃を与えたカービングスキー。
もっぱら私はカービングスキー世代ですが、傾きを駆使する事で簡単にターンを描くことが可能になりました。
大きな特徴はスキーセンターに比べスキートップとスキーテールの幅が広くなりR(ラディウス)と呼ばれるカーブがスキーに最初からついている事です。
形状はしゃもじの形をしています。
そもそもスキーが伝わってきた際はストレートの形状をしていたスキーがカービングの形状になっていきましたが、なぜこのスキー全体の幅の変化が付くとターンを作りやすくなるのでしょうか。
そもそもの特性について触れていきます。
スキー板には”トーション“と“フレックス”と呼ばれる2つの動きがあります。
トーションはスキー全体が捻じれる事を指します。
フレックスはスキーの剛性のことで滑走中に出るスキーの撓み(たわみ)のことです。
カービングスキーは、ストレートスキーの時代に滑走中ブレの原因になりタブーとされていた、トーションを使い曲がる構造になっていますが、滑走中は進行方向に対して必ずスキートップから雪面を捉えています。
ターン導入時に傾きが出来た時スキーセンターに比べスキートップは幅が広いため、より多くの抵抗を受けます。
その際スキートップとスキーセンターの間にトーションが発生しターン内側にスキートップが入り込もうとしてきます。
そして進行方向からいきなりスキートップが入り込むのでスキーが局所的に曲げられてきます。
その際フレックスが発生しスキーに圧力が一気に貯められ、その圧力を解放する事でスキーの鋭い走りが生まれるのです。
カービングスキーの最大の利点は最小限の減速でターンしていくことです。
より曲がりやすく減速しないので初心者は簡単にターンし、上級者は速いターンを可能にしました。
<ATOMICサーボテック>
数年前にATOMICから出たサーボテックという全く新しい機能について紹介します。
サーボテックの特徴は引っ張る力(張力)を使いスキーのフレックスを最大限引きだしている事です。
優れている点は2つあります。
サーボテック機能が搭載されているスキーはキャンバーが大きくついている事が特徴です。
キャンバーとはスキーを雪面に置いた時スキーセンターが浮いている構造の事で通常時は逆反りしている事をいいます。
このキャンバー構造と張力を駆使して直進するときのスキーの剛性を高める事が可能になりました。
今まではスキー自体を硬くしたり重くしたりして直進の際のブレを少なくしていましたが、サーボテックの搭載によりスキー全体の重さを軽くしても剛性を高めてブレを少なくすることが出来ました。
軽さを生かした取り回しの良さとスキーの安定性を実現しているのです。
もう一つは張力を生かしたフレックスを最大限出せる構造を実現したことです。
今まではプレイヤー自体の体重がスキーの撓みに大きく影響していました。
スキーを撓ませる力は重さ(自重)×速さ(滑走スピード)なのでよりフレックスを引き出すには体重が必要になってきます。
しかしサーボテックの搭載でスキートップをビンディング方向に引っ張る構造で自重+張力を使い短時間で大きな撓みを作り出す事に成功しました。
以上2つの特徴は張力によってバランスを作る構造です。
このことをテンセグリティ―構造といいます。
これはテンション(張力)とインセグリティー(統合性)を掛け合わせた言葉で建築に使われている技術でもあります。
テンセグリティ―構造がスキーで可能になったのは、スキー自体の強度が張力を使っても保てるのか計算できる技術がスキー界に入ってきた証拠でもあります。
つまりスキーを科学する事が海外では始まっている証拠でもあるでしょう。
より安定性とターンのしやすさと速さを掛け合わせたマテリアルになります。
<デメリット>
スキーが進化し曲がりやすく速いスキーが出来る一方、デメリットもありました。
大きく2つあります。
1つは怪我です。
ターンスピードの上昇により急激に内側に入り込むスキーにより膝の前十字靭帯断裂、内側側副靭帯損傷、半月板損傷の怪我が増えました。
体の構造、トレーニングを理解し股関節の動きが上手く使えないと膝への負担が大きくなり重度が高い怪我につながってしまいます。
アルペンスキーの膝の怪我確率は他のスポーツに比べて非常に高いです。
夏のトレーニングから予防していかなくてはいけない課題であるでしょう。
2つ目は曲がる事に特化しすぎてしまった事です。
カービングスキーは曲がりやすい反面ターンから抜け出せないという特徴があります。
これは遠心力・向心力の関係で両方の力がつり合い安定してターン出来る反面、つり合った力を崩す事が出来ずターンが終わらくなってしまいました。
傾きをより引き出す向心力の動きが強く、斜面に対しての落下力が得ずらくなりました。
外足荷重が主流であったストレートスキーからカービングスキーに変わったタイミングで内足荷重という考えも出てきました。
これは曲がりすぎるスキーを斜面下に落下させるために出た一つの打開策なのかもしれません。
内足を使わざるおえなかったと考えた方が良いでしょう。
当然斜度があるので基本外足荷重がメインになります。
本質的には内足荷重はアルペンスキーには合わない考えであると思います。
よりスキーの性能と体の構造を理解しリンクさせないと現代のスキーを扱うことは難しくなってきています。
<まとめ>
大切なのはマテリアルにどう体を合わせるかです。
アルペンスキーは外力(落下、雪面状況)が大きく関わるスポーツです。
同時にマテリアルをいかに使うかが重要になるスポーツです。
マテリアルの性能を理解し体の構造にリンクさせることが最も重要になります。
怪我は一種の体の使い方が間違っているサインでもあるでしょう。
スキーオフシーズンの考え方が見直される時期にきていると思います。
スキーの構造を知り、そこからスキー技術の本質的な部分を学習していく。
スキーコーチにおいてもスキー選手においてもこの記事の内容に踏み込んで理解できている方はまだまだ少ないのではないでしょうか。
引き続き様々なことを学習し、このSTORYで皆様にお届けできたらと思っております。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
次回は桒原コーチにバトンタッチしてお届けいたします!
ありがとうございました。
谷